介護事業者の倒産が過去最多を更新しています。2025年の倒産は 176件 、休廃業・解散は 653件 。倒産は2年連続、休廃業・解散は4年連続で最多の更新です。
そして2026年に入ってから、この淘汰の中身が変わりはじめました。これまで倒産件数を押し上げてきた訪問介護が5年ぶりに減少に転じ、代わりに デイサービスが上半期の最多を1か月早く更新 しました。何が起きているのかを、データで押さえておく価値があります。
この記事では、公表されている統計をもとに現状を整理したうえで、同じ「事業をやめる」でも廃業と譲渡(M&A)では何が残り、何が失われるのか を比較します。数字を見て終わりにせず、自社がどちらの選択肢を持っているかを判断できる状態まで持っていくことがねらいです。
この記事の要点
- 2025年の倒産は176件、休廃業・解散は653件。退出のかたちは法的整理より「自主的にたたむ」が3.7倍多い
- 2026年1〜5月は訪問介護の倒産が5年ぶりに減少し、デイサービスが前年同期比+68.7%。淘汰の主役が入れ替わりつつある
- 廃業には費用が出ていくが、譲渡なら対価を受け取り雇用と利用者を引き継げる。ただし譲渡には半年〜1年の時間が必要で、資金が尽きてからでは選べない
数字で見る2025年:倒産176件、休廃業・解散653件
東京商工リサーチの集計では、2025年の介護事業者の倒産は 176件(前年比2.3%増) で、2年連続の最多更新となりました。2019年と比べると約60%増です。
サービス別では 訪問介護が91件(12.3%増) と突出しています。一方で通所・短期入所は45件(19.6%減)、有料老人ホームは16件(11.1%減)と減少し、認知症グループホームほかは9件で3倍以上に増えました。
倒産原因は 売上不振が140件(79.5%) 。形態は破産が160件(90.9%)で、事業の再建ではなく清算に向かうケースがほとんどです。
同じ調査機関による休廃業・解散は 653件(6.6%増) で4年連続の最多更新。内訳は訪問介護465件(3.7%増)、通所・短期入所介護95件(35.7%増)、有料老人ホーム23件(8.0%減)です。
ここで注目したいのは、倒産176件に対して休廃業・解散が653件と3.7倍あること です。介護事業者の退出は、法的整理に追い込まれる形よりも、経営者が自ら判断してたたむ形のほうが圧倒的に多い。
これは重要な意味を持ちます。自主的にやめる判断ができる状態なら、まだ譲渡という選択肢が残っている可能性が高い ということです。653件のうち、譲渡を検討したうえで廃業を選んだ事業所がどれだけあったのかは分かりません。ただ、検討せずに畳んだ事業所が相当数あることは想像がつきます。
2026年の変化:淘汰の主役が訪問介護からデイサービスへ
2026年に入って、傾向が変わりました。東京商工リサーチの2026年1〜5月の集計では、 デイサービスの倒産が27件(前年同期16件、68.7%増) となり、2000年以降の上半期最多だった25件を1か月残して超えました。
一方で 訪問介護は31件(前年同期比18.4%減)と5年ぶりに減少 しました。訪問介護は数年にわたって倒産件数を押し上げてきたサービスなので、この反転は小さくない変化です。
もう一つ、原因の中身が変わっています。 人手不足倒産が8件(前年同期1件) と8倍に増え、その内訳は人件費高騰5件、後継者難2件、求人難1件でした。
つまり 「人が採れないから続けられない」から「人件費を払えないから続けられない」へ、詰まる場所が移っている 。処遇改善の加算が拡充されても、加算の対象にならない部分の人件費や、送迎・光熱費といった固定費の上昇は続きます。デイサービスは送迎コストと施設維持費を抱えるので、この構造の影響を訪問介護より強く受けます。
なぜ訪問介護が減ったのかは、統計からは断定できません。すでに撤退がひと巡りした結果として母数が減った可能性もあり、経営環境が改善したと読むのは早いでしょう。訪問介護の収益構造については訪問介護で黒字の事業所は約6割!黒字化を目指すためには?もあわせてご覧ください。
倒産しているのはどんな事業所か
2025年に倒産した176件の内訳を規模で見ると、傾向がはっきりします。
- 従業員10人未満:142件(80.6%)
- 負債1億円未満:141件(80.1%)
- 資本金500万円未満:128件(72.7%)
倒産しているのは、ほぼ小規模事業者です。 これは経営者の能力の問題ではなく、規模がそのまま耐久力になる構造の問題です。
従業員10人未満の事業所では、管理者やサービス提供責任者が1人退職するだけで人員基準を満たせなくなります。代わりを採れなければ、事業を続ける前提が崩れる。そして介護報酬は公定価格なので、人件費や光熱費が上がってもサービスの単価に転嫁できません。規模の小ささが、そのまま利益率の薄さと変動への弱さに直結します。
厚生労働省の集計では、2024年10月時点の介護職員数は212万6,227人で、前年からの増加はわずか487人でした。業界全体で人が増えていない状況では、小規模事業所が採用競争に勝てる余地は限られます。
統計の読み方:調査機関で件数が違う理由
介護の倒産件数を調べていると、機関によって数字が違うことに気づきます。2025年について、東京商工リサーチは176件、帝国データバンクは139件(前年比0.7%減)と発表しています。
これは どちらかが間違っているのではなく、集計の条件が違うため です。帝国データバンクは「負債1000万円以上・法的整理による倒産」を対象としており、負債がそれ未満のものや、法的整理を経ない事実上の廃業は含みません。集計対象に含むサービスの範囲も機関ごとに異なります。
さらに、帝国データバンクの集計では2025年の業態別の最多が 通所介護49件 で、訪問介護43件を上回っています。東京商工リサーチでは訪問介護91件が最多です。ここも対象の切り方の差によるものです。
数字を引用するときは、 どの機関の、どの定義の数字なのかをセットで確認する のが安全です。「介護の倒産は何件か」という問いに単一の正解はなく、傾向を読むために複数の集計を並べるのが実務的な使い方になります。
廃業と譲渡、残るものが違う
ここからが本題です。事業を続けられないと判断したとき、選択肢は廃業だけではありません。
| 項目 | 廃業・解散を選ぶ | 譲渡(M&A)を選ぶ |
|---|---|---|
| 金銭 | 原状回復、解雇予告手当、リース残債などの費用が出ていく | 事業の価値に応じた譲渡対価を受け取れる可能性がある |
| 従業員 | 解雇となり、再就職先は本人が自分で探すことになる | 雇用を引き継げる(条件は交渉次第) |
| 利用者 | 他事業所への移行を自力で調整する | サービスを継続したまま引き継げる |
| 借入・経営者保証 | 返済義務と経営者保証が残りやすい | 返済原資を確保でき、保証解除の交渉余地がある |
| 必要な時間 | 指定辞退の届出と清算手続きで数か月 | 検討開始から成約まで半年〜1年 |
廃業では残るのは負債の処理コストだけになりがちですが、M&Aでは事業の価値に応じた譲渡対価を受け取れる可能性があります。 加えて、従業員の雇用と利用者のサービスが途切れないという違いは、地域で長く事業をしてきた経営者にとって金額以上の意味を持つことがあります。
ただし表の最後の行が決定的です。 譲渡には買い手を探し、条件を交渉し、行政手続きを済ませる時間が必要で、廃業より長くかかります。 資金が尽きてから相談しても間に合いません。だから判断の順序としては、先に譲渡の可否を確かめて、それが難しいときに廃業を検討する のが合理的です。逆の順序で進めると、選択肢が減ってから気づくことになります。
廃業そのものの手続きについては介護事業所の赤字・廃業・閉鎖・倒産の原因と手続きに、サービス別の実務は赤字の訪問介護を廃業・閉鎖・倒産する前に取るべき行動・手続きや赤字で経営悪化したデイサービスを廃業・閉鎖・倒産する前に取るべき行動・手続きにまとめています。
赤字でも譲渡が成立する事業所の条件
「赤字だから売れない」と考えて相談に至らないケースが多いのですが、実際の評価はもう少し複雑です。譲受企業(買い手)が見ているのは、直近の損益だけではありません。
指定そのものに価値がある場合があります。 新規指定が受けられない地域では、既存事業所を引き継ぐことが唯一の参入手段になります。詳しくは【2026年最新】介護・障害福祉サービスの「総量規制」とは?対象サービス・M&Aで参入する選択肢を徹底解説をご覧ください。
人が揃っていることも価値です。 業界全体で職員が増えていない状況では、資格者が定着している事業所は、それ自体が採用コストの代替になります。管理者やサービス提供責任者が残る見込みがあるかは、買い手が最初に確認する項目のひとつです。
利用者との関係と立地 も評価されます。稼働率に伸びしろがある、近隣に競合が少ない、併設や近接の事業所とシナジーが見込める、といった条件は赤字を補って評価されることがあります。
逆に、譲渡が難しくなるのは次のような状態です。指定基準を満たせていない、運営指導で重い指摘を受けたまま是正していない、決算書や記録が整っておらず実態が説明できない、そして 資金が尽きるまでの時間が足りない 。最後のひとつは自分でコントロールできる要素なので、早く動くだけで改善します。
売却価格の算定方法については【2026年最新】介護事業のM&Aの相場と売却価格の計算式、高値がつく条件を解説で解説しています。
いつ、どの順序で動くか
判断のタイミングは、資金の残りで決まります。目安として、次のサインが出ていたら検討を始める段階です。
- 運転資金の残りが数か月分になっている
- 借入の返済がリスケジュールの相談段階に入っている
- 管理者やサービス提供責任者の退職が決まり、代わりの目処が立たない
- 稼働率の低下が半年以上続き、回復の手を打ち切っている
順序としては、まず自社の損益と資金繰りを月次で説明できる状態に整え、次に譲渡の可否を確かめ、並行して廃業に必要な費用も試算しておく。この3つが揃うと、どちらを選んでも根拠を持って決められます。資金繰りの立て直しから考えたい場合は介護事業の資金繰りが悪化したら?原因と対策、出口戦略まで解説、承継の方法を比較したい場合は介護事業所を事業承継(譲渡・売却)するときに考えられる4つの方法が参考になります。
「M&Aを実施すると決めてから相談する」のではなく、「検討を始めた段階で専門機関に相談する」 ことで、選択肢は確実に広がります。相談した結果として廃業を選ぶ判断も十分にありえますが、その逆(廃業を決めてから譲渡を探す)は時間的に成立しにくいのが実務の実感です。
カイポケM&Aが提供する支援
カイポケM&Aは、介護・障害福祉サービスに特化したM&A仲介です。赤字や資金繰りの悪化を抱えた状態からでも、次のような段階でご相談いただけます。
- 直近の損益と資金繰りをもとにした、譲渡の可否と想定価格の見立て
- 廃業に必要な費用と、譲渡した場合の手残りの比較
- 従業員の雇用と利用者のサービスを継続させる条件の設計
- 譲受企業の探索と条件交渉、行政手続きを含むクロージングまでの実務支援
秘密厳守・ご相談と着手金は無料です。 一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 2025年の介護事業者の倒産は何件ですか?
A. 東京商工リサーチの集計では176件(前年比2.3%増)で、2年連続の過去最多です。帝国データバンクは139件と発表していますが、これは「負債1000万円以上・法的整理」に限る集計のためで、対象の定義が異なります。
Q. なぜ訪問介護の倒産が多いのですか?
A. 事業者の規模が小さく、ヘルパーの確保が難しい構造があります。2025年は91件で最多でしたが、2026年1〜5月は31件と5年ぶりに減少しました。すでに撤退がひと巡りした影響も考えられ、経営環境が改善したと読むのは早い段階です。
Q. 赤字でも売却できますか?
A. 可能性はあります。指定そのもの、資格者の定着、立地や稼働率の伸びしろが評価されるためです。ただし資金が尽きるまでの時間が足りないと成立しないため、早めのご相談が有効です。
Q. 廃業と譲渡ではどちらが費用面で有利ですか?
A. 一般に譲渡です。廃業では原状回復、解雇予告手当、リース残債などの費用が出ていく一方、譲渡では対価を受け取れる可能性があります。ただし個別の条件によるため、両方を試算して比較することをおすすめします。
Q. 相談してから成約までどのくらいかかりますか?
A. 検討開始から完了までに半年〜1年程度が一般的です。廃業手続きより時間がかかるため、資金の残りから逆算して動く必要があります。
まとめ
- 2025年の倒産は176件、休廃業・解散は653件。退出のかたちは「自主的にたたむ」が3.7倍多く、その多くに譲渡の可能性が残っていた
- 2026年は訪問介護が5年ぶりに減少し、デイサービスが上半期最多を更新。人手不足倒産も1件から8件へと増え、詰まる場所が人件費に移っている
- 倒産の8割が従業員10人未満。規模の小ささが耐久力の差になる構造は、個々の努力では変えにくい
- 廃業と譲渡で残るものは違うが、譲渡には時間が必要。先に譲渡の可否を確かめる 順序で動くと選択肢が減らない
数字は業界全体の話ですが、判断するのは自社の話です。いま自社がどちらの選択肢を持っているのかは、損益と資金繰りを並べれば見えてきます。