訪問介護や訪問看護、デイサービスなど、介護事業はサービスを提供してから介護報酬が入金されるまでにタイムラグがある業態です。
手元資金が不足しやすく、資金繰りの悪化が「黒字倒産」を招くリスクも少なくありません。
この記事では、介護事業の資金繰りが悪化しやすい構造的な原因と特徴を整理したうえで、早期にとれる対策について解説します。
また、それでも資金繰りの改善が難しい場合の出口戦略として、M&Aによる事業再生を検討する際の概要も紹介します。
1. 資金繰りが悪化している状態とは
1-1. 資金繰りの悪化と「黒字倒産」
資金繰りが苦しい状態とは、帳簿上の損益とは関係なく、手元の現金が不足して支払いが難しくなっている状態を指します。
一般的には赤字が続くことで運転資金が減り、資金繰りが悪化しますが、売上が増えて帳簿上で黒字になって上がっていても、入金より支出のタイミングが早ければ、資金は底をついてしまいます。これがいわゆる「黒字倒産」です。
介護事業では、報酬が入金されるまでに約2カ月のタイムラグがありますが、人件費や施設の維持費、光熱費などの固定費は通常、毎月決まったタイミングで支払う必要があります。この構造が続く限り、常に一定の運転資金を手元に確保しておかなければ、経営は安定しません。
1-2.介護事業の資金繰りが悪化しやすい理由
収益の構造上の特性
上述した入金のタイムラグに加え、介護報酬は請求手続きに不備があると返戻や保留が発生します。また、介護報酬は公定価格であるため、物価高などによるコストの増加を利用料金に転嫁できません。
そのうえ、介護事業は多くのサービス種別で人件費比率が60〜70%に上ります。それぞれのサービスには人員配置基準が定められているため、稼働率に合わせて人件費を下げるのは困難であり、そのために、利用者数が減少すると、急激に資金繰りが悪化しやすいのが介護事業の特徴といえます。
さらに、3年に1回の介護報酬改定で単価の引き下げや加算等の算定要件の変更があるため、中長期の経営計画を立てにくいことも、急な収益悪化への対応を困難にしています。
経営環境の激化
人手不足が慢性化している介護業界では、採用コストや給与水準が上昇傾向にあります。
また、近年は光熱費や食材費などのコスト上昇も経営を圧迫する要因となっています。
地域によっては事業所数の増加で利用者獲得競争も激しくなっています。こうした経営環境の激化によって、2025年の介護事業者の倒産件数は2年連続で最多を更新しています (*出典:東京商工リサーチ)。
1-3. 代表的なサービス種別ごとの資金繰りの特徴
介護事業の資金繰りは、共通している部分が多い一方、サービス種別によって固有のリスクもあります。
ここでは、その代表例を紹介します。
自事業のサービス種別と照らし合わせて参考にしてください。
デイサービス(通所介護)の資金繰りの特徴
デイサービスは、送迎車両のリース料・燃料費など、他のサービス種別と比べて設備の維持や運営にかかる固定費が多い点が特徴です。
また、近年は食材費の高騰の影響を強く受けています。
さらに、利用者の体調や季節によって稼働率が変動しやすく、低稼働率の状態が続くと収益が大きく落ち込みます。 設備投資の回収に時間がかかるうえ、稼働率の波が資金繰りに直結しやすいサービスといえます。
訪問介護の資金繰りの特徴
訪問介護は、令和7年度介護事業経営概況調査結果によると人件費率が「67.8%」と、介護事業の中でも比較的高いサービスです。
売り上げを伸ばすにはその分だけヘルパーの確保が必要になるため、事業規模にかかわらず人件費率が高止まりしやすい構造にあります。
慢性的な人材不足が続く介護業界の中でも、ヘルパー不足は突出しており、採用・定着にかかるコストは増大を続けています。離職が発生するたびに採用・研修コストが再発生し、利益を継続的に圧迫します。こうした事情が、訪問介護の資金繰りを難しくしているといえます。
訪問看護の資金繰りの特徴
訪問看護も人件費率が高いサービスです。令和7年度時点でその比率は、「70.1%」でした。
収支計画で予定していた訪問回数に届かない場合や急なサービス中止・キャンセルが複数発生した場合、赤字になり、資金不足に陥る可能性があります。
また、職員が退職した場合、看護師等の専門職を採用するために広告費や人材紹介料などがかかり、収支に影響する可能性もあります。
2.介護事業の資金繰り悪化を防ぐ・改善する方法
2-1.資金調達の手段
資金繰りが苦しくなった際にまず検討すべきは、外部からの資金調達です。
主な手段として以下が挙げられます。
- 金融機関からの融資を受ける:銀行や信用金庫などからの借入は、まとまった運転資金を確保するための一般的な手段です。日本政策金融公庫は介護・福祉事業を対象とした融資制度を設けており、民間金融機関より低金利・長期返済で借りられるケースがあります。ただし審査には時間がかかるため、資金不足が深刻化する前に動くことが重要です。
- 社会福祉法人・医療法人向けの融資を受ける:法人格によっては、自治体や福祉医療機構(WAM)の融資制度を利用できる場合があります。金利や返済条件が有利なケースもあるため、自法人が対象となるか確認しておく価値があります。
- 介護報酬ファクタリングを利用する:国保連への請求債権を買い取ってもらうことで、翌々月の入金を待たずに早期に現金を得られるサービスです。融資と異なり、負債にならない点がメリットですが、手数料が発生するため、資金調達コストとして織り込む必要があります。
- 補助金・助成金を活用する:設備投資や人材確保を目的とした補助金・助成金が国や自治体から提供されています。返済不要である点は大きなメリットですが、申請から入金まで時間がかかることと、使途が限定される点には注意が必要です。
2-2.資金調達以外の対策
資金を外から調達するだけでなく、収支構造そのものを見直すことも重要な対策です。
以下に代表的な方法を紹介します。
- 入金サイクルの管理を徹底する:請求漏れや請求ミスは返戻・保留の原因となり、入金をさらに遅らせます。請求業務のチェック体制を整え、ミスを減らすことで資金繰り悪化のリスクを減らせます。請求ミスを減らすには介護ソフトの導入も有効な手段です。利用者からの自己負担分についても、回収ルールを明確にして未収金の発生を抑えることが重要です。また、資金繰り表を作成して、月ごとの入出金を把握することで、資金計画が立てやすくなります。日本政策金融公庫などが資金繰り表の無料テンプレートを提供しています。
- 固定費を見直す:シフトの最適化や業務効率化によって人件費が適正化できる余地がないか検討します。光熱費は、契約プランの見直しや省エネ対策で削減できる場合があります。
- 稼働率の改善:地域包括支援センターや居宅介護支援事業所との連携強化、口コミや紹介による利用者獲得など、営業・集客の取り組みを見直して収益改善を目指します。チラシやウェブサイトに掲載している情報の内容を見直すことも有効な手段です。
- 加算の取りこぼしがないか見直す:厚生労働省が公開している「介護給付費単位数等サービスコード表」や「算定要件一覧」を各事業所の状況と照らし合わせることで、加算の取りこぼしがないか定期的に点検します。現場のオペレーションを少し見直すことで、新たに加算が算定できれば、増収が叶います。
3.資金繰りが改善しない場合の出口戦略―事業譲渡という選択肢
資金調達や収支改善に取り組んでも、資金繰りが苦しい状態が解消されない場合の選択肢は限られてきます。「廃業」か「M&A(事業譲渡)」かという判断を迫られる場面で重要なのは、判断を先送りしないことです。財務状況の悪化が進むほど、M&Aを選択する場合の条件が厳しくなります。
ここからは、事業の再生を図るための手段として、M&Aを選択する場合について解説します。
3-1. 資金繰り難でも事業売却できる可能性
介護施設や事業所の譲渡を検討する際によくある疑問のひとつが、「赤字や資金繰りが苦しい状態にあっても、売却できるかどうか」です。
結論として、買い手が、許認可・人材・利用者・設備といった経営資源を引き継ぐことに価値を感じている場合など、需給の状況によって売却できることがあります。
特に、新規参入の場合は許認可取得や人材確保など多くのコストと時間がかかるため、地域に根ざした事業所などは、財務状況が厳しくても買い手がつくケースがあります。
また、法人全体は赤字でも、利益が出ていたり、何か強みがあるサービスがあれば、事業譲渡という形で、事業運営を存続できる可能性があります。
3-2. 「M&Aによる事業継続」という選択のメリット
利用者・職員の雇用が守られる
廃業と事業譲渡で最も大きく異なる点は、利用者へのサービス提供と職員の雇用が継続される点です。それまで築いてきた事業と、そこに関わる人々を守る手段として、M&Aは有効な選択肢です。
負債や資金繰り問題から解放される
事業譲渡により経営から退くことで、資金繰りのプレッシャーや借入の重圧から解放されます。経営者個人が連帯保証を負っている場合も、交渉次第で整理できるケースがあります。
譲渡対価を得られる
廃業では残るのは負債の処理コストだけになりがちですが、M&Aでは事業の価値に応じた譲渡対価を受け取れる可能性があります。経営者にとっての出口として、廃業より経済的に有利になるケースも少なくありません。
4.まとめ
介護事業は、入金サイクルの遅さや公定価格による価格転嫁の難しさなど、構造的に資金繰りが悪化しやすい業態です。物価高や人手不足といった経営環境の厳しさも加わり、対応を後手に回すほどリスクは高まります。
資金繰りの悪化に気づいたら、まずは融資やファクタリングなどの資金調達と、収支構造の見直しに着手することが重要です。
それでも改善が見込めない場合は、M&Aによる事業譲渡という選択肢もご検討ください。 資金繰りが限界を迎える前に動くことが、より良い条件での譲渡につながります。