福祉用具貸与(レンタル)のM&A|事業承継の流れと売却相場

公開日:
更新日:

福祉用具貸与は、レンタル卸を使えば初期投資を抑えて参入できるため、事業所数が増えてきた分野です。一方でいま、事業を続けるかどうかを考えている経営者が向き合っているのは、参入のしやすさとは別の論点です。

令和6年4月、一部の福祉用具について貸与と販売の選択制が導入されました。貸与なら毎月の報酬が続きますが、販売になれば一度きりの収入で終わります。事業の稼ぎ方そのものに関わる変更です。ただし、実際の影響は多くの人が想像するより小さく収まっています。本当に注意すべきなのは、次期改定に向けて*対象種目の拡大*が検討されている点です。

この記事では、福祉用具貸与事業のM&A(事業売却・事業譲渡)の流れと売却価格の相場を整理したうえで、この事業特有の評価ポイントと、制度環境の読み方を解説します。

この記事の要点

  • 売却価格の相場は、おおよそ時価純資産価額+営業利益の2〜5年分。ただしレンタル卸か自社在庫かで評価の中身が大きく変わる
  • 令和6年度に導入された選択制の影響は限定的。対象種目の貸与額は3年で3.1%減にとどまり、販売は初年度をピークに半減している
  • 注視すべきは次期改定での対象種目の拡大。候補に挙がる手すり・車椅子・歩行車は、現行の対象4種目の約71倍の貸与費規模がある

福祉用具貸与とはどんな事業か

福祉用具貸与は、要介護者・要支援者が在宅で生活するために必要な用具を貸し出す介護保険サービスです。車椅子、特殊寝台、手すり、歩行器、床ずれ防止用具などが対象になります。

M&Aを考えるうえで押さえておくべきは、2つの営業形態があり、それによって事業の姿がまったく違うという点です。

形態用具の調達特徴
レンタル卸の活用レンタル卸事業者から借りて利用者に貸与初期投資と在庫リスクが小さい。事業用資産をほとんど持たない
自社在庫の保有自社で用具を購入・保有し、メンテナンスも自社で実施設備投資と倉庫が必要。粗利率は高いが在庫が資産・負債の両面に乗る

この違いは、後述する企業価値の算定に直結します。自社に事業用資産がほとんどないタイプの事業所は、純資産をベースにした評価だと価格が付きにくいためです。

もうひとつの特徴は、福祉用具専門相談員の配置が指定基準として求められることです。事業所ごとに常勤換算2名以上の配置が必要で、この人材の確保が事業継続の前提になります。

福祉用具貸与事業の現在地

市場は伸びているが、事業所数は頭打ち

福祉用具の給付そのものは伸び続けています。厚生労働省の分析によれば、福祉用具貸与の月あたり総給付額は令和5年6月の6,699百万円から令和7年6月の7,217百万円へ増加し、利用者数も514千人から545千人へ増えています(国保連に請求事務委託を行う499保険者分)。

一方で、事業所数はおおむね7,000前後で頭打ちになっています。令和7年3月時点でサービス提供実績のある福祉用具貸与事業所は7,065か所。放課後等デイサービスのように事業所が急増しているサービスとは、状況が異なります。

つまり、市場が伸びるなかで事業者の数は増えていない。既存事業所の1件あたりの価値が下がりにくい構造であり、M&Aで規模を広げようとする買い手にとっては、新規開設より既存事業所の譲受が現実的な選択肢になります。

令和6年度の選択制は、影響が限定的だった

令和6年4月、要介護度に関係なく給付が可能な福祉用具のうち、比較的廉価で購入した方が利用者負担を抑えられる割合が高いものについて、貸与と販売の選択制が導入されました。対象は*固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖・多点杖*の4種目です。

導入から2年が経ち、令和8年3月の介護給付費分科会で効果検証の結果が公表されました。

対象種目の月あたり貸与額は、令和5年6月の13,716万円から令和7年6月の13,293万円へ。3年間で3.1%の減少にとどまっています。販売額のほうは令和6年6月の2,111万円が令和7年6月には1,116万円へと半減しました。

購入の選択率も低い水準です。最も高い固定用スロープでも令和6年度が15.2%、令和7年4〜6月は7.5%。最も低い歩行器は1.6%から1.2%でした。選択制対象種目の販売が1件もなかった保険者が、498保険者のうち43あります。

貸与費・販売費・居宅介護支援費の合計額は令和6年6月をピークに減少し、選択制導入前とおおむね横ばいという結果です。購入を選んだ理由は「長期利用が想定されるため」「貸与よりも購入のほうが経済的であるため」が多数でした。

要するに、多くの利用者は引き続き貸与を選んでいます。選択制を理由に事業の将来を悲観する材料は、現時点のデータには見当たりません。

注視すべきは次期改定での対象拡大

ただし、この検証調査には*次期改定に向けた意向調査*が含まれています。保険者と事業所に対して「貸与・販売を選択可能にした方が良いと考えられる用具」を尋ねているのです。

保険者の回答で最も多かったのは「特になし」の60.3%でした。ただし具体的な種目としては、手すり、車椅子、歩行車が挙がっています。事業所側に「利用者から購入を希望する声があった用具」を聞いた結果も、歩行車21.5%、車椅子20.7%、手すり15.2%と同じ並びでした。

ここが重要です。この3種目は、貸与費の規模がまったく違います。

区分種目月あたり貸与費
現行の選択制対象固定用スロープ109万円
歩行器257万円
歩行補助つえ1,392万円
拡大候補手すり88,508万円
歩行車20,749万円
車椅子15,641万円

現行の対象4種目の合計が約1,758万円に対し、拡大候補の3種目は約124,898万円。約71倍です(いずれも福祉用具貸与以外のサービスを利用していない利用者・令和7年6月分)。

現行の選択制が「影響が限定的」で済んでいるのは、対象が貸与費のごく一部に絞られているからです。仮に手すりや車椅子が対象に入れば、影響の桁は変わります。次期改定の議論は、福祉用具貸与事業の出口戦略を考えるうえで最大の変数です。

なお、貸与価格には上限が設定されており、3年に1度見直しが行われます。上限を超えて貸与した場合は給付されません。この上限の運用も、収益に直結する制度要素として押さえておく必要があります。

福祉用具貸与のM&Aの流れ

M&Aは、一般的に以下のステップで進みます。

① 専門家への相談 何を準備すべきか、どのような流れで進むか、どれくらいの期間がかかるかを把握します。カイポケM&Aではオンラインで簡単・無料の査定を実施しています。

② 自社情報の整理 買い手企業へ提示する情報をまとめます。福祉用具貸与では、後述するとおり*利用者数・保有用具の状況・レンタル卸との契約内容*が特に重要になります。

③ 買い手企業とのマッチング 専門家が希望条件に基づき買い手企業へ打診します。

④ 買い手企業との面談(基本合意) 詳細情報を提示したうえで双方の意向を確認し、基本合意に至ります。

⑤ デューデリジェンス 買い手企業が企業価値に関する詳細調査を行います。この結果をもとに対象範囲と対価が決まります。

⑥ 最終合意に向けた交渉 双方の希望条件をすり合わせます。

⑦ 関係者への説明 従業員と利用者への説明を行います。福祉用具貸与では、担当の介護支援専門員への説明も欠かせません。

⑧ 最終契約・クロージング 最終契約を締結し、対価の支払いと経営権の移転が行われます。

相談から成約までの期間は、一般的に半年から1年程度が目安です。

福祉用具貸与のM&Aにおける留意点

ここが、他のサービス種と最も違う部分です。

レンタル卸か自社在庫かで評価が変わる

レンタル卸を活用している事業所は、事業用資産をほとんど持ちません。したがって純資産をベースにした評価では価格が付きにくくなります。この場合、評価の対象になるのは以下のような無形の要素です。

  • 利用者数と利用者1人あたり貸与額
  • 居宅介護支援事業所・医療機関からの紹介経路
  • 福祉用具専門相談員の人数と経験
  • 営業エリアの重複状況(買い手にとって空白地域かどうか)

逆に*自社在庫を保有している事業所は、用具そのものが評価対象*になります。ただし注意が必要です。減価償却の進んだ用具は帳簿価格と実際の稼働価値が乖離しますし、貸与価格の上限見直しによって収益性が変わった商品も混在します。在庫の中身を種目別・年式別に整理しておくことが、価格交渉の材料になります。

レンタル卸との契約内容

レンタル卸を使っている場合、その契約が譲受側に承継できるかどうかを早い段階で確認する必要があります。事業譲渡では契約が自動的に移らないため、卸事業者の同意が前提になります。取引条件(掛率)が変わると収益構造が変わるため、デューデリジェンスの重要項目です。

福祉用具専門相談員の確保

指定基準として常勤換算2名以上の配置が求められます。この人員が譲渡後に確保できなければ、指定を維持できません。M&Aを進める段階で従業員への説明と今後の意向確認を行うことが重要です。福祉用具貸与のM&Aで最も現実的なリスクは、ここに集中します。

指定の承継とスキーム

株式譲渡であれば法人格が変わらないため指定は継続します(変更届は必要)。事業譲渡の場合は、譲受側で新規に指定を取得する必要があります。同一法人内での事業所の移管か、別法人への譲渡かで手続きの重さが変わるため、スキームは早期に決めておくべきです。

併設事業との切り分け

福祉用具貸与は、住宅改修、特定福祉用具販売、訪問介護などと併設されていることが多い事業です。どこまでを譲渡範囲に含めるかを明確にしないと、交渉が長引きます。特定福祉用具販売は選択制の導入で位置づけが変わったため、貸与とセットで扱うかどうかは論点になります。

福祉用具貸与のM&A・売却事例

株式会社トーカイによる株式会社松屋リネンサプライの事業承継(2019年)

「介護用品レンタル」「リネンサプライ」「調剤サービス」など幅広く事業展開する株式会社トーカイが、2019年1月1日に株式会社松屋リネンサプライの福祉用具貸与事業、福祉用具販売事業、住宅改修事業を事業承継しました。愛知県で事業を展開していた同社を承継することで、中部地方における顧客基盤の拡大を図ったものです。

福祉用具貸与のM&Aでは、この事例のように「貸与・販売・住宅改修」をまとめて承継する形が多く見られます。在宅サービスとして関連が深く、同じ営業経路を共有しているためです。譲渡を検討する際も、この3つをセットで整理しておくと買い手が評価しやすくなります。

売却・譲渡価格の相場

福祉用具貸与事業の売却価格の目安は、おおよそ「時価純資産価額+営業利益×2年〜5年分」です。

ただし冒頭で述べたとおり、レンタル卸を活用している事業所では時価純資産の部分が小さくなるため、実質的には営業利益の何年分をどう評価するかが交渉の中心になります。この年数の幅を決めるのは、利用者基盤の安定性、紹介経路の強さ、人員体制、営業エリアの価値です。

自社在庫を持つ事業所では、用具の時価評価が価格を大きく左右します。帳簿価格のまま交渉に入ると認識の齟齬が生じやすいため、事前の整理が重要です。

規模や保有資産の状況によって価格は変わりますので、こちらのページから無料査定をご利用ください。

売却・譲渡価格の算出方法

M&Aにおける企業価値の評価方法は、一般的に3つに分類されます。

手法考え方福祉用具貸与での使いやすさ
インカムアプローチ将来的な収益性を推計して企業価値を算出レンタル卸型の事業所に適する。利用者基盤の継続性が前提になる
コストアプローチ純資産を評価して企業価値を算出自社在庫型に適する。レンタル卸型では価格が出にくい
マーケットアプローチ類似企業の株価や過去の買収事例を参考にする案件数が限られるため、補完的に用いられることが多い

実務では複数の手法を併用し、事業の実態に合わせて重みづけを行います。自社がどちらのタイプかによって、有利になる評価手法が変わることを理解しておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。

福祉用具貸与の売却案件一覧

福祉用具貸与の売却案件は、こちらの売却案件一覧ページから検索できます。

よくある質問

レンタル卸を使っていて資産がほとんどありません。売却できますか

可能性はあります。福祉用具貸与では、指定、福祉用具専門相談員、利用者基盤、紹介経路といった無形の要素が評価対象になります。純資産による評価が出にくい分、営業利益とその継続性が価格の中心になります。まずは査定で現状を確認することをおすすめします。

選択制の導入で、事業の価値は下がりましたか

現時点のデータでは、そう言える材料はありません。対象4種目の貸与額は3年で3.1%の減少にとどまり、購入の選択率も最も高い固定用スロープで7.5%です。ただし次期改定で対象種目が拡大されれば話は変わります。手すり・車椅子・歩行車が候補に挙がっており、これらは現行対象の約71倍の貸与費規模があります。

貸与と販売、住宅改修を一緒に譲渡できますか

できます。実際の事例でも、貸与・販売・住宅改修をまとめて承継する形が多く見られます。営業経路が共通しているため、買い手にとっても評価しやすい組み合わせです。ただし譲渡範囲は契約で明確にする必要があります。

従業員の雇用は守られますか

株式譲渡では雇用契約がそのまま継続します。事業譲渡では譲受側と新たに雇用契約を結ぶ形になるため、条件を交渉のなかで取り決めます。福祉用具専門相談員は指定基準に関わる人材であり、譲受側にとっても確保が必須です。雇用継続を条件として明記することが一般的です。

事業譲渡の場合、指定はどうなりますか

事業譲渡では指定は承継されず、譲受側で新規に取得する必要があります。株式譲渡であれば法人格が変わらないため指定は継続します(変更届は必要)。手続きの重さが変わるため、スキームは早い段階で決めておくことをおすすめします。

まとめ

  • 福祉用具貸与の売却価格の目安は「時価純資産価額+営業利益×2年〜5年分」。ただし レンタル卸型か自社在庫型か で評価の中身が変わり、レンタル卸型では営業利益とその継続性が交渉の中心になります
  • 令和6年度に導入された選択制の影響は限定的でした。対象4種目の貸与額は3年で 3.1%減 、購入の選択率は最も高い固定用スロープでも 7.5% です
  • 注視すべきは 次期改定での対象種目の拡大 です。候補に挙がる手すり・車椅子・歩行車は、現行の対象4種目の 約71倍 の貸与費規模があります

福祉用具貸与は、市場が伸びる一方で事業所数が7,000前後で頭打ちになっている分野です。買い手にとっては新規開設より既存事業所の譲受が現実的な選択肢であり、譲渡を考える側にとっては条件を作りやすい状況にあります。

この記事の執筆者

この記事の執筆者

カイポケM&A編集部

株式会社エス・エム・エス

株式会社エス・エム・エスが運営する、介護・福祉・医療業界に特化したM&A仲介サービスの編集チーム。業界特有の法規制や経営課題を熟知した専門スタッフが、事業者様にとって有益な情報を分かりやすく発信しています。

カイポケM&Aについて詳しく見る

M&Aはご家族のみならず、従業員・会社への
関係者、また経営者様ご本人様、
すべての方の将来を左右する大きな決断です。
一人で悩まず、ぜひ私たちへお気軽に
ご相談ください。

各種お問い合わせ

事業承継・M&Aに関するご相談

秘密厳守・ご相談と着手金は無料です。
まずはお気軽にお問い合わせください。

自社の価値を知りたい方

無料査定を依頼する

譲渡・譲受のご質問など

各種お問い合わせ

お電話でのご相談・お問い合わせ

0120-991-002

通話無料 平日 9:00〜18:00(年末年始・GW休暇は除く)